寄り道して遅くなっても、着ければいい。

連載「寄り道が、物語を作る」

固定概念を寄り道で再定義する

「旅行に行く」という言葉をイメージすると、新幹線や飛行機といった乗り物に乗って遠方の観光地に行き数日滞在して家に帰ってくるという固定概念がいままであった。

本稿ではその固定概念を「速い旅」と定義する。「速い旅」の利点は、目的地における滞在時間を最大化できることである。
出発地点Aと目的地Bは地図上で点と点にて示されており、新幹線や飛行機で点の間を瞬間移動の如く移動することが可能である。目的地において観光を楽しむことも楽しいが、外を見ることが好きな私としては「移動」を楽しみたいと思う気持ちが常にある。特にJRの普通電車に長時間乗っていると、新幹線のように点と点の移動ではなく、一本の線の上を移動している実感が湧く。新幹線の車内からはわからない各地の「素顔」を見ることができ、その光景を見るだけで旅行している気分になれるものである。

しかし、私は電車を長時間乗り続けられるほどの電車好きではない。適度な休憩が必要だと思うことがある。その休憩こそ「寄り道」であり、「寄り道」を増やすことで旅のあり方を再定義できるのではないか?そんなことを考えている。

そのうち、寄り道することを目的とした旅も面白いのではないかという仮説を立て、その仮説を検証すべく今年の1月にとある旅行をしてみた。

「寄り道」が付き物となる旅を、本稿では「遅い旅」と定義してみようと思う。

なぜ「遅い旅」をやろうと思ったのか

そもそもなぜ「寄り道」がつきものの旅行をしようと考えたのか。
改めて考え見みると、いくつかの理由が浮かんだ。

1・観光地に行くことがさほど楽しみでは無くなった最初のきっかけとしては、ここ数年有名な観光地にいってもあまり面白さを感じなくなってしまったことにある。もともと他人と同じことをすることがあまり好きじゃない性格だったこともあり、「オリジナルさ」を求めた結果が「寄り道」がつきものの旅行だったのだろうと考えている。

2・目的地に近づく感覚を得られる私は東京から名古屋/大阪の移動であれば新幹線や飛行機を使おうと正直思わない。もちろん時と場合によるのだが、名古屋や大阪であれば何度も行っていることから現地に行っても「またきたな」という実感しか湧かない。
だからこそ、新幹線を使って目的地の滞在時間を最大化する「速い旅」ではなく、普通電車に乗って移動する「遅い旅」をやろうと思った。東京〜名古屋・大阪間に限らないが、旅行においては新幹線や飛行機に乗ると通り過ぎてしまう場所にこそ面白い場所があると思っている。普通列車というあえて鈍足な手段で移動することで目的地に近づいていく感覚を味わうことができる。

本当は北海道まで船や電車で行きたいのだが、どう頑張っても1日かかってしまうのでいつも飛行機で移動している。一度でいいから北海道まで寄り道しながら行ってみたいものである。

次章では実際に「寄り道旅」をした際の日記とその時に気づいたことを発信してみたいと思う。

旅行記

2022年1月6日 午前7時。
私は伊勢神宮に行くために名古屋駅から近鉄電車に乗車していた。
「そんなに急いで行かなくてもいいや」と思ったので、特急ではなく急行に乗車した。
朝の通勤・通学時間帯だったため四日市や津に向かう乗客が多く、車内で本を読もうと思ったけどなかなか集中できず結果1時間半程度ぼーっと過ごしていた。

そこで考えていたことはたった一つ。今日午後どこに行こうということ。

私の想定では冬晴れだろうと思って海を見に鳥羽へ行こうと考えていた。けれど、その日はあいにくの曇り。その後訪れた伊勢神宮においては粉雪が舞う空模様だった。

写真は伊勢神宮外宮付近にある「おはらい町通り」

「これでは鳥羽に行っても正直面白くないな」と思ってたのも束の間。
何故かわからないが突然「このままどこにも寄らず名古屋に戻るくらいなら、いっそのこと大阪に寄り道して帰ろ」そんなことを思いついた。

当日は近鉄電車が1日全線乗り放題の乗車券を持っていた。そのため、名古屋・伊勢・関西の大半のところへ行こうと思えば行ける状況だった。

5分くらい考えて即決行。

伊勢神宮を外宮・内宮ともに参拝して、醤油が濃い伊勢うどんを食べたら大阪方面に向かった。

三重県と奈良県の県境にそびえる青山峠を越えると、驚くほど晴れていた。

布施駅辺りでふと外を見ると、大阪らしい低い建物が延々と連なる光景が見えて「いや本当に大阪まで来ちゃったのか」そんな感覚を抱いた。

振り返れば、大阪が最初から行く予定の場所だったなら新鮮的な感情は芽生えなかったと思う。
伊勢市から2時間程度の場所なのにも関わらず、何回も来ている場所にも関わらず、大阪に来た達成感が味わえた要因は「寄り道」だったから。その事実に尽きると考えている。

いきなり来阪したため特に用事もなかったことから、梅田と難波に行って大阪っぽい光景だけ見て帰ろうと思い4時間ほど街歩きした。唯一の思い出は難波で食べたお好み焼きである。

本来の予定なら同じ時間に名駅で味噌カツかきしめんを食べている予定だったため、予定外の食事は少し格別の味がしたように思う。当日名古屋に戻ったのは22時ごろであった。

自分自身にとっても想定外の「寄り道」をしたが、結果大変充実した1日を過ごすことができた。伊勢神宮の参拝より大阪でお好み焼きを食べたことの方思い出に残っていることもまた面白い事実である。そして、乗り放題乗車券を大いに活用できたことは言うまでもない。

2つの気づき

本メディアは寄稿者が「寄り道」をした結果、各個人が得た気づきや発見を発信することをコンセプトとしている。私のこの時の気づきや発見を列挙すると以下のようになるだろう。

・旅に寄り道を含めると、いい意味で予定調和的な旅行では済まなくなり面白さが増す。
・→そして、高い充実感や良い思い出を得られる可能性が高まる・寄り道した場所が仮に訪れていた場所であっても、その時の心境次第では異なった視点で見ることができ、空間そのものに新鮮さを取り戻す。

余談だが、この時に大阪ではなく奈良や京都に行っていたらどんな所に行っていたのかな?と思うと好奇心が芽生えてくる。
再び伊勢に行った際は、また関西に「寄り道」して帰ってこようと思っている。