「面白くねぇ」とつぶやいた私の寄り道

連載「わたしの寄り道つみ立て貯金」 いいくぼなおみ

「面白くねぇ」とつぶやいた私の寄り道

身長142cm 体重33kgな中学一年生。
選んだ部活はバレーボール。

誰よりも小さくて誰よりもやせっぽち。
力がなくて、
素早くボールの下に入れるけど、
ベストなタイミングまで待てなくて
失敗も多かった。

でも、
部活が楽しくて、早起きして朝練出て、
授業中は睡眠学習。
授業が終わりの
掃除タイムはチャキチャキ仕切って
さっさと終わらせ、一番乗りで部室に入る。
こんな毎日を繰り返していた。

2年になり、レギュラーが近くなっても、
交代要員止まりだったけど。。。

そんな中でやってきたチャンス。

顧問の先生が
校内マラソン大会で学年10以内に
入ったらレギュラーにすると公言してくれた。

部長を中心に体力アップも兼ねて
ランニングの距離を長くして
みんなでマラソン大会で10以内を目指そうと
頑張った。

結果、私は学年4位。
バレーボール部の中では一番の成績。

レギュラー獲得に歓喜したのも束の間。

そのまま、
市内駅伝大会の候補生として
陸上部の臨時部員として陸上競技場に
連れていかれてしまった。
そこから毎日、毎日、長距離走。
1ヶ月後、市内の中学駅伝大会で優勝。

そりゃ、そうだよ、、、
私以外の駅伝メンバーは
全員、大人が走る都道府県駅伝の選手。

お正月は合宿。
箱根駅伝を目の前で見ながら、
茅ヶ崎の砂浜で走り続けた。

好きじゃないし、根性もないけど、
先生が怖いので、とにかく、走ってた。

迎えた県大会。

女子は中学生と高校生、合同で走る。
背の高いお姉さんたちに囲まれて、
なんで、私ここにいるんだろう?
って思ってた。

冷めた気持ちでスタートの号砲がなる。

第1区は3年生の頼れる先輩が走った。
私は第2区。
市の大会ではぶっちぎりの1位で
タスキを渡してくれたため、
前に誰かいないとやる気の起きない私は
独走体制のツラさに心が折れた。
今回も独走かなぁ、、、
抜かれちゃうなぁ、高校生もいるし、
なんて思いながら、

「2区の人、準備してくださーい!」と
声がかかる。
フィールドコートを脱いで、軽くアップする。
指先に血が巡るように
左右の指を組み合わせて手首を回す。

最後のコーナーを曲がる順で、
スタートラインに入る学校が呼ばれる。

◯◯高校、××高校、△△中学、、、

え???呼ばれない。聞き逃した???
いや、聞き逃していない。

10人以上呼び出しを終えて声がかかる。

ヤバイ、先輩に何かあった

怖いくらいに
冷静な気持ちでスタートラインに立つ。

先輩が苦しそうな顔でやってきた。
最初からの大ブレーキ。
自分にスイッチが入るのが分かる。

「お願い!」
必死の声で先輩からタスキを受け取り、
走り出す。

前にエサは十分。
「一つずつ追っていけ!」
応援で来ている陸上部の友達たちの声。

かなり前に小さく見える
有名なオレンジ色のユニフォーム。
あれに近づけばいい。

結構抜いて、結構抜かれて、
順位を一つ戻して3走にタスキを渡す。
タイムは自己ベストを30秒以上縮めた。
やれば出来る子かも自分?
いつも怖かった先生は、
タスキを渡した直後の私に
「よくやった!」と大きな声で褒めてくれた。

奇跡はこの後。
3走が新聞で大きく取り上げられるほどの
ゴボウ抜き。
4走、5走が手堅く走り切り県大会優勝。

陸上名門高校がいくつも出場する中、
中学2年生ばかりのチームが勝った。

チームのみんなは泣きながら喜ぶ。
先生たちも泣いている。
そうだよね、
この優勝のために頑張ったんだもんね。
だから、陸上を続けてきているんだもんね。

私だけ、その輪には入れなかった。

それなりに努力したよ。
それなりに頑張ったよ。
結果も出たよ。

でもね、嬉しくないのよね。

「面白くねぇ」

ポツリと誰にも聞かれずにつぶやいた。

努力して報われたって嬉しくない時もある。

2ヶ月、大好きなバレーボール部から離れ、
手にした結果は進学先選びでも役に立つほど
大きなものだった。

だけど、面白くない。

この日、私の中で、
「面白いかどうか」が選択基準という
ギアが一つ入った。

「面白くない選択を子どもにさせない」

そんな大人になりたいと
自分の道に一つの標識が立った。

執筆者

いいくぼなおみ Naomi Iikubo